もう一人の『父』としての思い∼漫画『六三四の剣』東堂国彦氏∼

自分の年代でスポーツ漫画の代表作は?と聞けば、『キャプテン翼』や『スラムダンク』あたりを挙げる人が多いかと思いますが

自分にとってのスポーツ漫画代表作は

『六三四の剣』(むさしのけん)なんです。

剣道は高校の授業で何度か経験しただけで道場にも部活にも所属したことはないんですが、その時自分が所属してた水泳部と剣道部が更衣室を共用していた関係で、練習の合間に剣道部が持っていた「六三四の剣」のコミックをよく読ませてもらってました。

今回はその「六三四の剣」の登場人物、主人公夏木六三四(なつきむさし)のライバル東堂修羅(とうどうしゅら)の父であり、全日本選手権で六三四の父栄一郎と死闘を繰り広げた「東堂国彦(くにひこ)氏」についてお話していきたいと思います。

眉目秀麗な天才剣士

国彦氏と六三四の父栄一郎とは大学剣道部の先輩・後輩の間柄なんですが、国彦氏は在学中に最年少記録で全日本覇者になったほどの天才剣士で、闘志を全面に出して闘う「熱いタイプ」の栄一郎とは対照的な「冷静沈着タイプ」なんですね。

普段の立ち振る舞いも武骨だけど陽気な吞兵衛キャラの栄一郎氏とは対照的に、容姿もハンサムで(修羅も高校生になると結構なイケメンになっている)、スマートな都会的雰囲気を纏った人物として描かれています。夏木親子は岩手出身・在住、東堂親子は奈良県の柳生出身・在住なんですが、夏木親子と修羅はそれぞれの地域の方言を話しているのに国彦氏は原作でもアニメでも何故か終始標準語を話してるんですよね。劇中ではその辺りの詳細は描かれてないのですが、もしかしたら剣道を極めるために早い時期から地元を離れていたのかもしれません。ちなみに、栄一郎氏は職業が岩手県警機動隊員と明確に設定されていますが、国彦氏はメインキャラクターではあるけど職業は明らかになっていません。

自分も東堂親子と同じ奈良県出身なんですけど、親族や周囲の大人の男性は皆「コテコテの奈良のオッチャン」だったので国彦氏の描写には正直違和感も覚えるのですが、もし今後リメイク等がなされるのであれば、終始コテコテ奈良県人の国彦氏ではなく修羅と話す時だけ方言になる国彦氏であって欲しいと思ってます(笑)。

剣道の鬼、ゆえに・・・

六三四の父栄一郎も時に厳しく熱く六三四に稽古をつけていくのですが、国彦氏が日々修羅につける稽古は妻であり修羅の母である朝香(あさか)さんがその度身を挺して止めに入るほど苛烈なものなんですね。そのシーンの描写はまさに「剣道の鬼」、現在の地上波では流せないんじゃないか?と思うレベルで修羅をシゴキまくります。故に生来病弱で感受性が人一倍強い朝香さん(ここも元女性剣士日本一の経歴を持つ六三四の母佳代さんとは対照的)は精神的疲弊から実家に帰ってしまって、物語途中に不慮の事故で亡くなってしまうんですが、互いの伴侶に対する愛情は揺るぎないものだった事が劇中夫妻両名・修羅の口から語られていて、日々の苛烈な稽古の中でも父国彦が我が子に抱いている愛情の存在を修羅もきちんと感じ取っています。

「夫婦・家族だから表立って言葉・態度に表さなくてもいいんだ」とは思いませんが、自分は東堂ファミリーの様な家族愛の有り様も一つの理想形だとも思うんですよね。

ただ、どっちの家庭に生まれたいか?と訊かれれば、やはり陽気な吞兵衛父さんとおっちょこちょい母さんの「夏木家」の様な家庭に生まれたいです・・・苦笑

六三四を復讐劇に追い込んでしまう・・・

学生時代に全日本優勝して以降公式戦に出場していなかった国彦氏は、六三四の父栄一郎氏が全日本初優勝を遂げた事に刺激されて久方ぶりに全日本出場、準決勝で栄一郎氏と激闘を繰り広げるのですが、その際自身が放った孟宗竹を貫通させる程の強烈な突き技により栄一郎氏が場外に吹っ飛ばされます。しかし、栄一郎氏は立ち上がり試合を続行、国彦氏が敗れ栄一郎氏は決勝に進み全日本連覇を成し遂げるのですが、場外に吹っ飛ばされた際頭を強打した事が原因で終了直後に亡くなってしまいます。そして、それを目の当たりにした六三四は表向き剣道を辞めたふりをして密かに特訓を積み、小学生離れの突き技を会得して単身奈良の東堂宅に乗り込み国彦氏に復讐の対戦を挑むのですが、六三四の技は国彦氏には全く通じなかったばかりか修羅との対戦にも敗れてしまいます・・

もう一人の「剣の父」たらんと願うも叶わず・・

復讐を果たせず同い年の修羅にも勝てず取り乱す六三四を、国彦氏が泣きながら竹刀で打ちのめして(修羅が止めに入るほどのボッコボコのギッタギタのメッタ打ち・・)「お前の父親が生きていたら同じことをやったはずだ。俺の対戦相手は今までもこれからもお前の父親だけ。お前が割って入る余地なんかない!!(意訳)」と言い放ち家から追い出すんですけど、原作に初めて触れた高校生当時は「物語によくあるベタな展開」程度にしか思えませんでした。しかし、曲がりなりにも親になった今このシーンを見返すと、この時国彦氏が泣いたのは六三四を情けなく思う気持ちよりも、むしろ我が子と同じ年端もゆかない六三四に仇討ちの真似事をさせてしまった自分自身に対する情けなさの方が大きかったんじゃないか?と思えるんですよね。

最大の宿敵である前に無二の同門剣友であった栄一郎氏亡き後、残された六三四を栄一郎氏に代わって正しい剣の道に導くべき存在の一人とも言える自身がその責を果たせないでいる事、その時点では六三四にとって「もう一人の剣の父」にはなれないで居た未熟な自身に対する情けなさで涙を流した、と自分は愚察する次第です。

あとがき

「見た目はスマート中身はぶきっちょ」な東堂国彦氏、そんな国彦氏にスポットを当てたシーンは今回紹介した以外にもたくさんあります。また、「六三四の剣」という作品自体が剣道シーンだけでなく主人公六三四をはじめ登場人物各々の人間的部分の描写にもすごく力を入れている作品だと思うので、この記事をきっかけに作品が一人でも多くの方の目に触れるようになることを願ってやみません。

今回もお読みいただきありがとうございました。

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